【特別対談】エックスサーバー×わいひら「業務提携後の2年間を振り返って」

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2022年9月7日、エックスサーバー株式会社は、わいひらさんからWordPressテーマ「Cocoon」の開発事業を譲り受け、同時に業務提携を開始しました。

提携後は、エックスサーバーが「Cocoon」の開発業務を全面的にサポートし、開発や公式サイトの運営はわいひらさんとエックスサーバーの開発メンバーを中心に行っています。

今回の対談では、わいひらさんと開発メンバーの後藤が、「Cocoon」の譲渡からこれまでの2年間を振り返ります。

\エックスサーバー開発のWordPressテーマ/
エックスサーバー開発のWordPressテーマ

プロフィール紹介

わいひら
無料のWordPressテーマ「Cocoon」の開発者。頸髄損傷による身体障害を持ちながらも、ブログ運営、Webプログラミング、Windowsソフトの開発など、幅広く活動中。
現在はエックスサーバー社と業務提携し、「Cocoon」の開発やWordPress関連の業務を担当。

後藤 光希(エックスサーバー株式会社)
2015年に新卒でエックスサーバーに入社し、保守開発から新規サービス開発、メディア運営、WordPressテーマ開発を経験。現在は課長としてマネジメントとサービス企画を担当。

後藤:本日はお時間をいただきありがとうございます。
今回の対談では、譲渡前後の2年間を振り返りながら、Cocoonのこれからについてお互いの考えをお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。

わいひら:こちらこそ、よろしくお願いいたします。

2022年の「Cocoon事業譲渡」について

Cocoon運営はギリギリの状態だった

後藤:まずは、譲渡前のCocoonの運営状況や、譲渡に至った経緯について、改めてお聞きしたいと思います。

わいひら:譲渡が決まった当時、Cocoonの運営はかなり不安定な状態だったんです。

もともと体調を崩しやすくて、譲渡前には病気での長期入院や、寝たきりで車椅子にも乗れない時期があったりと、思うようにCocoonと向き合えない日が続いていました。
自分に何かあったら、Cocoonが終わる」という状況で、常に不安でしたね。

フォーラムでも、自分の体調を知ったユーザーさんから「今後Cocoonはどうなるのか」「このまま運営を続けられるのか」といった質問が寄せられることもあって……。
ユーザーの皆さんも心配されていたんだと思います。

そんな時に、エックスサーバーさんからお声がけいただいたんです。

後藤:自分もいちWordPress利用者として、わいひらさんのご状況は知っていました。心身ともに優れない中で、ずっとお一人で続けてこられたのは、本当に大変だったと思います。

わいひら:あはは、ありがとうございます。
そんな状況なので、運営自体をどこかに任せることは頭にありました。

過去には他の会社からも譲渡のお話があったんですが、どれも有償化が前提で……。
Cocoonはできる限り無料で提供したいと思っていたので、いずれも丁重に辞退させて頂いていました。

後藤:「無料テーマとして提供する」ところがCocoonの中ですごく大きな要素なんですね。確かにユーザーにとってはありがたいですが、わいひらさんの生活も考えると個人での無料テーマの運営ってかなり大変ですよね?

わいひら:いや、本当に大変で……。無料テーマは儲かるものではないし、機能追加やアップデートのたびに目の回るような調整が必要になるし。
自分で運営しているアフィリエイトブログの収益がなかったら、ここまで続けられなかったですね。

後藤:そうまでして「無料であること」にこだわり続けるのは、なぜなんでしょう?

わいひら:Cocoonを通じて、WordPressブログに挑戦する人の「きっかけ」となれればと思ったからです。
ブログを始めるハードルを下げて、皆さんがブログを始めやすくすることが、Cocoonの存在意義だと思っています。

自分自身、車椅子生活で家で何もすることがなく、ただただ時間を浪費していた時に、「何かせねば!」と思っていました。
そこで今のテーマ開発にもつながるプログラミングを始められたのは、たまたまDelphiという言語の開発環境が無料で提供されていて「これなら元手もかからないし、やってみようかな」と思えたからです。
まともに収益を得られるようになったブログも、無料テーマがあって、お金をかけずに始められそうだと思ったから一歩を踏み出すことができました。

後藤:挑戦できる環境があったから、わいひらさんの今があるんですね。

わいひら:はい。だからこそ、Cocoonを無料テーマにすることで、多くの人がサイト収益を得たりするきっかけになればと思っていて。

それまで障害者年金以外は無収入だったので、自分で働いて収入を得て、初めて確定申告をしたときは、何とも言えない達成感がありました。これは自分の社会復帰の目標を納税としていたというのもあるのですが。
多くの人が、自分のように何かしらの成功体験をしてもらえる入口になればと思っています。

今もCocoonのユーザーさんがSNSで稼げるようになった!と報告しているのを見ると、本当に作ってよかったなと思います。そこが続けられた原動力ですね。

後藤:そのルーツを聞いてると、確かに有料だとまったく別物になりますね……。

わいひら:はい。だから、エックスサーバー社から、「自由に使える無料テーマのままで」と聞いたときは本当に嬉しかったです。
それと同時に、「企業として儲からないのになぜ?」とも思いました(笑)

後藤:あはは(笑)

エックスサーバーとしては、自社のWordPress領域を強化したいタイミングで。お知恵をお借りできればと思い、わいひらさんにお声がけしました。
その中で、Cocoonの現状をお聞きして。多くの利用者がいるサービスが止まってしまうことは、WordPress業界にとっても大きな損失だと思いました。

ブログをたくさんの人に始めてもらいたい気持ちは当社も同じ。
「Cocoon」を譲渡いただき、無料テーマとして引き続き運営していくことを決めました。

わいひら:本当に有難かったです。
レンタルサーバー業界で国内トップシェアの会社からのお話だったので、これほど信頼できる会社はないだろうし、これ以上ないお話だと思いました。

後藤:ありがとうございます。

譲渡が決まって「とにかくほっとした」

後藤:Cocoonの譲渡にあたって、どのようなお気持ちでしたか?

わいひら:譲渡が決まったときは、本当にほっとしました。ようやく肩の荷が下りたというか。
それまでは、運営に対する不安をずっと抱えていたので、それがどれほど大きかったのか、譲渡が決まった瞬間に改めて実感しましたね。

後藤:それは良かったです!プロダクトが自分から離れることについても寂しさがあるのかなと思うんですが、その点はどうでしたか?

わいひら:自分の望んだとおりに無償サービスとして継続されているので、そういった寂しさは感じませんでしたね。何よりも安心感のほうが強かったです。

もしこのお話がないまま運営が困難になって、仕方なく有償化での譲渡を選んでいたら、自分の思うサービスとはまったく違ったものになっていたと思うので……。
そうなったら寂しく感じていたかもしれませんね。

後藤:わいひらさんの意志を受け継いで運営ができているようで、こちらもうれしいです。

弊社との業務提携にあたって、ユーザーからも反響があったと思いますが、いかがでしたか?

わいひら:おそらく賛否両論あるだろうと思っていましたが、想像以上に賛同の声が多くて驚きました。自分の体調でユーザーの皆さんに心配をおかけしていた分、前向きに受け止めてくれたんだと思います。

譲渡後の運営体制の変化

チーム連携によって運営状況が大幅に改善

後藤:譲渡後は、わいひらさんと弊社と協力しながら運営していますが、この2年間で心境の変化やCocoonに対する変化はありましたか?

わいひら:個人のときと違ってバックアップ体制が整っているので、精神的に余裕を持って運営できるようになりましたね。

私が入院したときには、後藤さんやチームの皆さんがサポートしてくださるので、譲渡前と比べて本当に気持ちが楽になりました。

これまでは全部自分で管理していたので、体調不良とWordPressのアップデートが重なるとかなり苦しくて……。

後藤:ありがとうございます、そのように言っていただけて安心しました。

自分たちとしても、これまでは開発のサポートや後方支援がメインでした。わいひらさんにお力添えもいただきながら、チームでCocoonを安定して運営できる環境を作った2年間だったと思います。

わいひらさんも含め、チーム内で意見共有しながら効率的に運営できるようになったのは大きな変化ですね。

わいひら:そうですね。チームで運営する精神的な頼もしさを、日々すごく感じています(笑)

後藤:それはよかったです!私たちもCocoonというユーザーを多く抱える成熟したサービスを運営することはすごく成長につながりました。
サービスの向こう側にあるユーザーの皆様を意識することで、安心してご利用いただけるよう細心の注意を払う意識がより強く持てるようになったと思います。

私たちのチームはXWRITEというWordPressテーマも開発・運営しているんですが、テーマ運営に対する姿勢はCocoonでの業務を通じて大いに学ばせていただいています。

わいひらさんもテーマ運営の大先輩なので、たくさん学ばせていただいてます!
テーマ開発の中でやろうと思っていた取り組みを「あれは大変だからやめたほうがいい」とアドバイスをいただいたり……。

わいひら:いや、自分は全然なにも(笑)
エックスサーバーのWordPressチームの開発力もすごくて、自分も学ぶことが多いです。

後藤:あはは、恐縮です。

現在も積極的に運営に携わっていただいていますが、譲渡前後で他に変わったことはありますか?

わいひら:精神的に楽になったこと以外は、開発・運営に関することは以前と大きく変わっていません。
チーム体制になったとはいえ、引き続きCocoonにはしっかり向き合っていますし。

逆に開発チーム側でCocoonの運営で変わったこととか、驚いたことはありますか?

後藤:そうですね、フォーラムの重要性を知れたのはすごく大きかったです。
わいひらさんもご参加されながら、有意義な意見交換が日々交わされていて、本当に素晴らしい財産だなと感じました。

XWRITEでもすぐに取り入れた要素ですね。

わいひら:ありがとうございます。自分もフォーラムには本当に助けられていて……。
フォーラムについては、体調が良いときには毎日見ています。もう日課ですね。

質問が寄せられていれば、参加者の皆さんが積極的に回答してくれるので、自分の対応時間も減ってきていて。
今はテーマの不具合修正くらいになりました。

フォーラムでは自分だけだと気付かないことも報告してくださるので、いつも本当に助けていただいています。

後藤:トラブルシューティングもそうですが、雑談トピックなどを見ていても、皆さんすごく楽しそうですよね。
あれもCocoonならではのコミュニティ性というか、醍醐味なのかなって思いますね。

わいひら:企業が管理するサービスになると、ああいった雑談トピックも「消した方がいいのかな?」とも思たんですが、何も言われなかったので(笑)
残しちゃってよかったんでしょうか?

後藤:特に話題に挙がったことはないので……大丈夫だと思います!(笑)
Cocoonが多くの方に愛されている一つの証明でもありますし。

わいひら:フォーラムの件もそうですが、これまでとほとんど変わらない運営方針でCocoonを提供できていることはすごくありがたいです。

私から見てCocoonに必要なことは日々改修できていますし、これまでの開発路線が変更されるということは全くなかったです。

自分のやりたいこともしっかりテーマに反映できていて、本当に懐の深さを感じますね。

後藤:当社としても、多くのユーザーが愛用するCocoonを、そのまま違和感なく使い続けていただくことを大事にしています。

サービスの価値向上に向けての視点は同じだったので、方向性で衝突することがなかったのかなと思いますね。

この2年間はわいひらさん主導の改修も多かったですが、今後はエックスサーバーのチームからの改善の割合をどんどん増やしていきたいです!

わいひら:ブログを書く方にとってより使いやすいものにしていきたいですね。
これからも楽しみです。

提携後、エックスサーバーのプロダクト品質が向上

後藤:開発チームとの連携で、他にもメリットに感じていただけたことはありますか?

わいひら:開発中に不具合が見つかったときに、短時間で適切に修正していただけるのが助かっています。
私が独学で作ったテーマなのに、すぐに読み解いて対応できるのは、さすがプロだなと。

後藤:ありがとうございます。

スムーズに対応できる要因として、Cocoonの開発者であるわいひらさんに直接相談できるのが大きいですね。

テーマ改修の中で、開発当時の背景をお聞きしたり、修正するときに意見をいただけるのも、すごく勉強になっています。

わいひら:チームに対してもいい形で関われているならよかったです。

後藤:単なる機能やコードだけじゃなく、機能実装の経緯や、当時のユーザーの反応などを併せて伺うことで、こちらの理解度も大きく上がる実感がありますね。すごく貴重なお話を遠慮なくどんどん聞けるようになったのは、開発チームにとっても大きな財産になっています。

当社開発のWordPressテーマ『XWRITE』の改善や機能追加をはじめ、他のプロダクトにもわいひらさんの経験知は大いに活かされています。

わいひら:あ、自分も『XWRITE』は実際に触っていますが、すごく使いやすいテーマですね。

他のテーマではあまり見かけない独自の機能もあって素晴らしいなと思いました。
デザインパターンも揃っていて、Canvaみたいに気軽にデザインを整えられて楽しく使ってもらえそうだなと。

技術のある人たちがチームで取り組むと、本当にすごいですね。
個人でやっていた自分には絶対に真似できないと感心しました。

後藤:そう言っていただけると嬉しいです!

弊社には機能開発やUI開発に実績のあるメンバーが揃っているので、使いやすさ、見た目、機能性が充実したテーマを作り上げられるのが大きな強みですね。それぞれのテーマ開発・改修の中で学んだ知見は、お互いのプロダクトに反映していければと思っています。

ちょうどチームのメンバーのお話も少しさせていただきましたが、当社チームへの印象っていかがですか?

わいひら:先ほどもお話しましたが、やっぱり技術力の高さは本当に「プロだな…」と思います。

特にブロックエディタに関連する技術がすごい。Cocoonの改修のスピード感や対応力もそうですし、XWRITEの機能実装を見ていても、そう感じますね。

あとは、チームの雰囲気がとても良くて、メンバーの方がいつも丁寧に対応してくださるのもいいなと思いました。
ミーティングでも気軽に話しやすいですし、小林社長のお人柄も知っているので、「すごくホワイトな職場なんだろうな」と感じました。

後藤:ありがとうございます。改めてご評価いただくと照れますね(笑)

私たちも、わいひらさんのCocoon運営で培われた豊富な経験と知識には非常に助けられています。ブロガーとしてもご活躍されていたので、開発者とユーザー目線の両方を持たれているのがやはり強いなと。
ブログ運営の知見もユーザーを知るうえでとても参考にさせていただいています。

余談ですが、わいひらさんはレスポンスが非常に早いとメンバーからは大好評でした(笑)
テーマに関する業務はもちろん、事務作業についてもすぐご対応いただけるので、ここはうちのチームも見習わないとなと……。

わいひら:本当ですか!これまであまり組織の中で働いた経験がなく、皆さんにご迷惑をおかけしていないかと心配していたので安心しました(笑)

後藤:今後もいい形でご一緒できればと思うので、引き続きよろしくお願いします!

わいひら:こちらこそ、よろしくお願いします。

エックスサーバーとCocoonのこれから

今後もブログ初心者を支えるテーマとして存続

後藤:今後のCocoonの運営体制として、お考えになられていることはありますか?
Cocoonの開発に継続して関わっていきたい、反対に将来的には開発から離れたいなど。

わいひら:どちらでも構わないと思っています。この2年でCocoonの進む方向についてもズレを感じなかったので、このまま自分の手を離れても、自分が望む形でCocoonは続いていくんだろうなという安心感があるからですね。

この2年で運営もチームが中心になり、自分がもしいなくなってもサービスとして継続していくようになってきているので、私からはとくに強い希望はありません。

ただフォーラムの確認はライフワークになっているので、今後もよければこのままフォーラムには顔を出せればと思います。

後藤:ありがとうございます。
開発チームと連携を取りながら、今後も変わらずにわいひらさんと一緒に運営させてもらえればと思っていたので、ひとまず安心しました(笑)
引き続き、ぜひ関わっていただけると……!

ただ、この2年間で裏方としてのテーマ運営はある程度形になってきたので、これからは運営面のサポートも強化できればと考えています。
フォーラム対応も引き続きわいひらさんにもお願いしつつ、技術的な質問については必要に応じて開発チームからの回答も増やしていきたいですね。

わいひら:はい、ぜひよろしくお願いします。

後藤:そのほか、Cocoonの運営を通して、今後やっていきたいことはありますか?

わいひら:Cocoonはブログを始めるための入口のような存在として、これからも使ってもらいたいので、多機能というよりは「使いやすさ」をより強化していきたいですね。

その後に、「XWRITE」などの有料テーマに移行して、ステップアップしてもらうことも一つの選択肢だと考えています。

まずは気軽に始めて成功体験をする、そのチャレンジの第一歩として、引き続き選んでもらえるテーマであり続けられればと思います。

後藤:これからも、Cocoonをたくさんの方に使っていただきたいですね。
ブログデビューを後押しするテーマであり続けられるよう、今後もわいひらさんと協力しながらサポートしていきたいと思います。

まとめ

後藤:Cocoonは今後も無料テーマとしてサポ-トしながら、わいひらさんと協力しながら運営の強化に努めていきます。

今後はCocoonやXWRITE以外の分野でも、一緒に事業開発や改善に取り組んでいけたらと思います!
引き続き、当社のメンバーとして、よろしくお願いいたします。

本日は対談のお時間をいただきありがとうございました!

わいひら:ありがとうございました。

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